熱帯魚飼育の世界

熱帯魚

自然案内マガジン:熱帯魚特集号

ネオンテトラの泳ぐ水草水槽

ネオンテトラの泳ぐ水草水槽

特集【熱帯魚飼育の世界】

世界中の魅力的な熱帯魚の世界を特集しました。丈夫で飼いやすい小型熱帯魚を中心に、水族館で楽しみたい大迫力の超巨大熱帯魚まで、めくるめく熱帯魚の世界を幅広くご紹介いたします。もちろん飼育の方法や病気の治療についてもバッチリ!前半は初心者向けの熱帯魚飼育を中心に、そして後半はちょっと飼育の難しい熱帯魚もご案内いたします。

今回の特集は熱帯魚飼育です。自動で水温を調節してくれる熱帯魚用のオートヒーターが開発されたことにより、熱帯魚の飼育は格段に手軽で身近なものとなりました。とはいえ熱帯魚ショップには大型熱帯魚の幼魚や、毒を持つ熱帯魚も売られています。あとで困らないためにも熱帯魚とその飼育についての必要な知識を事前に得ておくことから、すでに熱帯魚飼育は始まっていると考えた方が良いでしょう。熱帯魚の飼育がより快適で、そして安全に楽しめるよう、熱帯魚飼育の世界をテーマにお届けいたします。

ベタ
ベタ・スプレンデンス

グリーンネオンテトラ
グリーンネオンテトラ


●特集【熱帯魚飼育の世界】●

【小型熱帯魚】

クラウンキリー

初めて熱帯魚を飼育するのであれば、やはり小さな水槽でも飼育することのできる小型の熱帯魚が適しています。小さい熱帯魚はなんとなくデリケートで飼育が難しいイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。もちろんとてもデリケートな小型熱帯魚もたくさんいますが、一般の熱帯魚ショップで見ることのできる種類であれば、そのほとんどがとても丈夫です。逆に中型や大型の熱帯魚の中にも極めてデリケートな種類もいますので、必ずしも大きさで丈夫かどうかは判断できないことを覚えておきましょう。

写真はクラウンキリー
アフリカに生息する3センチほどの小型熱帯魚です。目の周りがメタリックヴァイオレットに輝き、成長するとヒレが赤やオレンジ、メタリックブルーに彩られる美しい熱帯魚です。水面近くにいることが多く、浮くエサを好んで食べます。以前はたいへん高価でしたが、東南アジアで大量に養殖され、安価で手に入るようになりました。また、系統の良い国産のクラウンキリーもわずかに流通しており、価格は数十倍にもなりますが、その美しさには格段の差があるため、この種に魅せられた熱心なファンに求められています。


【飼育しやすい小型熱帯魚の種類と飼育】

ベタ・スプレンデンス

ベタ

東南アジア原産の熱帯魚で、大きなヒレと鮮やかな色彩が人気です。空気呼吸ができるという珍しい能力を備えているため水中の酸素不足にはめっぽう強く、小さなビンに入れて売られていることが多くみられます。青や赤などの品種があり、特に青いベタは部屋を暗くして斜め上からだけ光を当てると強烈なメタリックブルーが浮かび上がり、また、赤いベタが見せてくれるその水中花のような華やかさは豪華絢爛で存在感があります。ビンでの飼育では突然死を起こす場合がありますので、できるだけすみやかに水槽に移してあげた方が良いでしょう。闘魚と呼ばれるほどオス同士は激しく争うので、ひとつの水槽にはオスは一匹しか入れられません。流れのない、穏やかな環境を好みます。すぐに人工飼料にも慣れてくれる飼いやすい熱帯魚です。

グリーンネオンテトラ

グリーンネオンテトラ

南米に生息する小型カラシンの仲間です。メタリックなエメラルドグリーンの輝きはまさに息を呑むほどの美しさです。ネオンテトラにあるような下側の赤い部分がほとんどなく、とてもエレガントな印象をうける熱帯魚です。ネオンテトラに比べてやや病気にかかりやすく、また、水草の柔らかい新芽をかじってしまうイタズラ者ですが、実に魅力的な熱帯魚です。清潔な水と穏やかな水の流れを好みます。エサは浮くタイプの人工飼料が良いでしょう。

ボルネオプレコ

ボルネオプレコ

壁や岩にピタリと貼り付く、とても可愛い熱帯魚です。黒っぽい体に水玉模様を持ち、底を這うように泳ぎます。エサは沈むタイプをあげましょう。水槽にはできるだけ強い流れを作ってあげます。高温には弱いので、夏場の温度上昇には注意してあげて下さい。

トビハゼ

トビハゼ

史上最強の可愛さを誇る究極のペットフィッシュがこのトビハゼです。とても良く慣れ、手にも乗ります。一日のほとんどを陸で過ごすため、陸場は必須です。エサも陸で与えます。垂直の壁も軽々と登ってしまうため、フタがないとすぐにどこかへ行ってしまいますのでご注意を!フィルターは小型で濾過能力の高いスポンジフィルターが最適です。熱帯魚用の人工岩などで陸地を作ります。平らな面で陸地が作れれば、そこをエサ場にできて便利です。また、飼育水には必ず人工海水の素を海水の半分程度入れて下さい。これは必ず行わなければなりません。温度管理については海水にも使えるオートヒーターにヒーターカバーをつけて使用します。暑さにはけっこう強く、夏場の高温にもかなり耐えてくれます。エサは平らな陸地があれば、そこに小さな乾燥エビや粒状飼料をまくと食べますし、水でふやかしたアロワナ用の飼料「カーニバル」を適当な大きさに切ってスプーンに乗せて差し出すと飛びついてきます。人を良く覚えてくれる、本当に可愛い熱帯魚です。

ベタ・ディミディアータ

ベタ・ディミディアータ

ワイルドベタと呼ばれる原種ベタの仲間がいます。中でもベタ・ディミディアータは長く伸びたヒレとメタリックブルーの縁取り、そしてスラリとしたスマートな体型を持つ、極めて優雅な熱帯魚です。ワイルドベタの中には飼育が大変難しい種類もいますが、ディミディアータは比較的丈夫で、人工飼料にもすぐに餌付いてくれる飼いやすい熱帯魚です。この種はマウスブルーダーと呼ばれ、オスは卵を口の中で大切に護ります。孵化した稚魚はほどなく親魚の口から出てきますが、ブラインシュリンプ幼生を与えて育てるとみるみる大きくなります。3センチくらいになると人工飼料もよく食べてくれるようになり、管理もかなり楽になりますが、このころからオス同士は争うようになります。死に至ることはめったにありませんが、かなり激しく争うため、ヒレはほとんどなくなってしまいます。一度こうした状態になってしまうと大きくなってもまず再生しないので、雌雄の区別がつき始めたら、すぐに1匹づつ分けてしまいましょう。

スワローキリー

スワローキリー

デリケートな熱帯卵生メダカの仲間で、初心者向きとは言えませんが魅力的な熱帯魚です。スワローキリーの飼育には十分な数と種類の濾過バクテリアなどによって安定した環境が必要です。熱帯卵生メダカやワイルドベタなど、この手の熱帯魚を飼育する場合にはフィルターに頼った飼育を行うと失敗しやすいので、フィルターを使う使わないに関わらず、水槽内のバランスを保つことを心がけましょう。また、活性炭の使用はかなり有効ですので、なかなかうまく行かない場合は試してみると良いかもしれません。さて、スワローキリーにおいて一番の問題は飼育よりも、その繁殖の難しさです。この種の卵はピートモスに生み付けられますが、それを数ヶ月の間、水から出して寝かせなくてはなりません。この間に卵がほとんど消えてしまうことが多いため、ひと筋縄ではいかない熱帯魚です。


【古代魚】

ポリプテルス

淡水魚が繁栄を始めたのは古生代デボン紀ごろのことです。この頃には板皮類や棘魚類と言った、現生の魚類とは全く違った種類の淡水魚たちが泳ぎ回っていました。この古生代にはこうした絶滅原始魚類の他に、パラエオニスクスや肺魚などの原始的な硬骨魚類も存在しており、なんと、その生き残りとされる熱帯魚たちが今も生きているのです。彼らは古代魚と呼ばれ、多くの熱帯魚ファンに親しまれています。
原始肺魚とされる化石
原始肺魚とされる化石(写真上)

ポリプテルス・オルナティピニス(写真左)
ポリプテルスは原始魚類の形質を多く受け継ぐ熱帯魚です。このオルナティピニスのように大型になる種が多いので、飼育にはそれなりに大きな水槽が必要ですが、絶滅した化石種に多く見られる、ひし形の固いウロコ、腕のような胸ビレ、鼻管と呼ばれる一対の突き出た鼻ヒゲ、そして体のはるか後方に位置する腹ビレなど、まるで原始魚類を目の当たりにしているかのようです。魚類化石の中でも、特に古い古生代の絶滅魚類が持つ特徴を備えた魚類が今もこうして生き残っているというのは、あたかも化石が生き返ったかのような驚きを与えてくれます。

肺魚類も代表的な古代魚です。ウキブクロが肺のような機能を持っていて、水から口を出して空気呼吸を行います。その様子から陸上動物の祖先と思われがちですが、陸上で暮らす脊椎動物の祖先は肺魚類ではなく、ユーステノプテロンというシーラカンサスと同じ総鰭類の仲間です。ちなみにこうした肺状の構造は肺魚だけのものではなく、ポリプテルスや、アミア、ガーパイクなど、程度の差こそあれ、原始魚類の形質を受け継いだ古代魚の共通する構造でもあります。


【古代魚の種類と飼育】

ポリプテルス

ポリプテルス

アフリカに生息する古代魚です。中でも写真右のポリプテルス・パルマスは古くから親しまれてきた小型の飼いやすいポリプテルスです。極めて丈夫で、しかも陽気な性格でいつも元気に泳ぎ回り、そして良く慣れるため、もっとも可愛らしいポリプテルスと言えましょう。大きくなると緑色の粉をまぶしたようになり、ずば抜けた美しさも持っています。エサは人工飼料もとても良く食べてくれます。写真左のポリプテルス・デルヘッツィも古くから知られているポリプテルスですが、こちらは少しシャイで、時々底砂に潜って隠れたりします。また、慣れるのにも少し時間がかかるでしょう。ポリプテルスはいずれの種類も十年以上も生きる、長生きで楽しい熱帯魚です。

アフリカ肺魚

アフリカ肺魚

肺魚の飼育については、とにかく大きくなり、エチオピクスに至っては2メートルにもなりますので、あまり飼育に向いた熱帯魚とは言えません。また、大きいだけでなく恐るべきアゴの力を持つ危険生物でもあり、現地では漁師も襲われています。小型のアンフィビウスや、ドロイ、レピドシレンなら飼育も可能ですが、取扱いには注意しましょう。水の汚れにはある程度の耐性がありますが、ある時いっきに体調を崩し、そのまま死に至る場合もありますので、一見、体調を崩していないように見えても油断せず、定期的な水換えを行いましょう。エサは沈むタイプのナマズ用の人工飼料を与えますが、慣れると浮いたエサも食べるようになります。


【危険な熱帯魚】

熱帯魚ショップには初心者の方には向かない危険な熱帯魚がいることもあります。ここではそんな種類について解説していきます。熱帯魚ショップへ出かける前に名前を覚えておきましょう。

ボティア

いつも水底にいる熱帯ドジョウの仲間です。とても可愛い顔立ちをしていますが、顔の横からいきなり鋭いトゲが飛び出してくるので、手でつかんだりするとケガをします。

シーパーチ

スズキに良く似た熱帯魚です。スズキと同じようにエラの縁がカミソリのように鋭いので、触れると切れます。水槽を掃除するときなどは気をつけましょう。

スネークヘッド

いわゆるライギョの仲間です。大型化する種類も多く、水からジャンプしてきて手などに噛みつきます。鋭い歯がズラリと並んでいて、特に大きな個体に噛まれると大ケガになります。

淡水ハオコゼ

大きなヒレをゆらゆらさせながら泳ぐ姿は魅力的ですが、ヒレの支柱である棘に毒をもっています。小さい熱帯魚ですが、刺されると激しく痛みます。

ライオンフィッシュ

ユーモラスな顔立ちに惹かれるキュートな熱帯魚。こちらも棘に毒をもっています。一見、無害そうな姿をしていますが、油断なりません。

淡水エイ

エイもサメの仲間ですから鋭い歯にはもちろん注意が必要ですが、特に危険なのが尾びれのトゲ。ここに強烈な毒を仕込んでいます。万一、刺されたら、迷っているヒマはありません。大至急、救急車を呼ぶ必要があります。

ピラニア

河を渡る大型動物を集団で襲うその凄まじさで恐れられているピラニア。実際には、ほとんどの種類はおとなしいのですが、それでもわずかな油断が事故につながります。特に大型になるピラニアの恐ろしさはご想像のとおりです。

肺魚

大型の肺魚はアゴの力が絶大で、そうとう固いものでも簡単に噛み砕いてしまいます。どんなに動かないと思っても、絶対に顔の周りに手などを近づけませんように。

カンディル

南米で最も恐れられている世界一凶暴なこの熱帯魚も売られています。わずか数センチの小型熱帯魚ですが、体をドリルのようにして獲物の皮膚を突き破り体内を食べ進んでいきます。

電気ナマズ

とても可愛い顔立ちをしていますが、強力な発電力をあなどってはなりません。特に大きくなった個体は大変キケンです。

電気ウナギ

2メートル50センチにもなる怪魚中の怪魚で、世界最強の発電力を持った生物です。ある意味、魚類における進化の頂点に君臨すると言っても良いでしょう。平常時からかなりの電気を発し続けていますが、攻撃時の発電力は想像を絶します。幼魚はとても可愛いのですが、興味本位での飼育は絶対に避けるべき熱帯魚です。


【世界の熱帯魚を写真で紹介するサイト】

熱帯魚フォト水族館
熱帯魚の主な原産地として知られる東南アジア、南米、アフリカの魅力的な熱帯魚を、小型の種類を中心に写真で紹介しています。


●熱帯魚飼育の手順●

ここからは、いよいよ実際の熱帯魚飼育について解説していきたいと思います。文字が多くなりますので、「もっと簡単に!」という方は、こちらをどうぞ→熱帯魚飼育

【熱帯魚の飼育用品】

熱帯魚の本当の魅力を体験するには実際に飼育してみることが一番です。そのために欠かせないのが熱帯魚飼育用品。ここではそんな熱帯魚用の器具類や便利グッズの中から最低限必要なものについて、その種類と選び方、使い方をみていきたいと思います。

エサ

熱帯魚の飼育に関する器具類は各メーカーの鋭意努力により日々めざましい進歩を遂げ、熱帯魚の飼育をより便利で身近なものにしてくれています。そして特に熱帯魚のエサについては種類に合わせたラインナップも充実していて、いかにエサに関心が集まっているかを伺い知ることができます。その選び方についてですが、栄養のバランスに優れ、保管もしやすい配合飼料がベストです。熱帯魚の中にはなかなか配合飼料を食べてくれない種類もいますが、最初のうちはあまりそうした熱帯魚の飼育は避けた方が無難です。

さて、配合飼料にも熱帯魚の種類に合わせた様々なタイプが用意されています。お目当ての熱帯魚専用のエサがあれば、もちろんそれを選ぶべきですが、そうでなければその熱帯魚に合った適切な商品を選ぶ必要があります。まず一般的なのがフレークと呼ばれる薄い紙片のような形状の配合飼料です。浮いたエサをうまく食べられる熱帯魚であれば、これで問題ありません。柔らかいので口の小さな熱帯魚でもついばみながら食べることができる便利なエサです。次に粒状飼料です。これは熱帯魚の口の大きさに合わせて選びます。

浮くタイプと沈むタイプがありますが、どちらでも食べるようなら浮くタイプを選びましょう。食べ残しのエサが沈んだまま放置されてしまうと急速に飼育水を汚します。場合によってはこのことが熱帯魚にとって致命的な結果となってしまう場合もありますので、最も注意したいところです。

水槽

水槽の規格はざっと分けると横幅がおおむね30センチ単位で大きくなっていきますが、36センチ、45センチの水槽もよく使われます。標準はニシャク(2尺)と呼ばれる60センチ水槽で、家庭用であれば一般にはここまでが小型水槽です。90センチまでが中型水槽、120センチ以上が大型水槽と考えて良いでしょう。75センチというのもありますが、あまり見かけません。かつてはほぼこれらの規格で作られた水槽ばかりでしたが、今では様々な大きさや形の水槽が登場してきています。

また、材質は水槽選びのとても重要なポイントです。最も普及率の高いガラス製の水槽はキズがつきにくく透明度もバツグンで、特に小型水槽には最適です。ただしガラスですので取扱いには十分な注意が必要になります。小型水槽でも水を入れると思いのほか重くなりますので、水を入れたまま持ち歩くのは大変キケンです。特に水換えの時などはこぼれた水で床などが滑りやすくなっている場合もありえますから、思わぬ事故に遭わないためにも十分に注意しましょう。なお、ガラス水槽に限ったことではありませんが、水槽の置き場所は平らで安定した場所であることが絶対条件です。

次にアクリル製の水槽ですが、これは透明度も高く、そしてなにより驚異的な軽さと丈夫さをもっているため、とにかく扱いやすい水槽です。特に大型水槽には絶対にアクリル製の水槽がオススメです。キズがつきやすいので、コケ取りスポンジはアクリル水槽OKのタイプを選ぶとともに、掃除の際には固いものでこすったりしないよう注意しましょう。そのほか、安価なプラスチック製の水槽もありますが、これは細かいキズや歪みがある場合も多く、透明度も少し落ちるため鑑賞や写真撮影という面ではやや劣ります。ですが、繁殖や稚魚の育成用には安価に数を揃えられる上に丈夫で取り扱いやすく、たいへん重宝する便利な水槽です。

【関連ページ】 熱帯魚用の水槽

ヒーターとサーモスタット

熱帯魚は熱帯地方に生息しているため、常に水温を20度から30度の間を維持しておく必要があります。水温については熱帯魚の種類によって好みの温度も違うため一概には言えませんが、通常は25度前後であれば問題ありません。ベタや熱帯卵生メダカなどは、ゆっくりであればかなりの低温にも耐えてくれますが、やはり冬場は少なくとも20度以上は保ってあげましょう。そこで必要になってくるのが熱帯魚用のヒーターです。これは水中で発熱して水を温める器具です。小型水槽であれば10Wから300Wくらいがよく使われますが、水槽の大きさに合わせて選びます。10リットル以下の水槽であれば30Wで十分でしょう。45センチ水槽で200W、60センチ水槽で300Wあれば申し分ありません。

また、小型水槽用の30ワットであっても相当に熱くなりますので、絶対に発熱部には触れないようにしましょう。熱帯魚もジッとしていることの多い種類では火傷をしてしまう恐れがありますので、その場合はヒーターカバーをつけます。特に肺魚やナマズ類は注意しましょう。逆にローチのように物陰に潜り込む性質のある熱帯魚の場合はヒーターカバーの中に入り込んで事故になる可能性がありますので、この場合はヒーターカバーはつけないようにします。

ところでヒーターは水温を上げるための器具ですので、そのままではいつまでも温度を上げ続け、やがて熱帯魚は煮えてしまいます。こうした温度の上がりすぎを防ぐのがサーモスタットです。現在はヒーターにサーモスタットが内蔵されたタイプがありますので、これであれば何一つ設定の必要もなく、ただ水槽に入れておくだけで良いので便利です。また、熱帯卵生メダカのようにやや低温の方が調子の良い熱帯魚の場合は、18度くらいに設定された金魚用のオートヒーターを利用しましょう。オートヒーターは細かな温度設定ができないのが難点ですが、一般的な熱帯魚の飼育においては全く問題になりません。

【関連ページ】 熱帯魚用のヒーターとサーモスタット

フィルター

熱帯魚が食べ残した微細なエサやフンなどは、飼育水の中に有害なチッ素酸化物をもたらします。弱酸性になることの多い淡水性熱帯魚の場合は、そうした環境の中において特に毒性の強い亜硝酸塩の増加が大きな問題となります。これを毒性の弱い硝酸塩に換えてくれるのが、濾過バクテリアと呼ばれる有益な細菌類です。フィルターはこの濾過バクテリアに少しでも多く快適に住んでもらえるようにするための、いわば濾過バクテリアのための巨大集合住宅と言えるものです。濾過バクテリアは酸素が多いほど元気になりますので水の流れを作ったり、表面積を大きくしてたくさんの濾過バクテリアが住めるような工夫がされています。

フィルターにもいくつか種類がありますが、安価で使いやすいのが投げ込み式フィルターです。エアーポンプと呼ばれる器具で空気を送り込んで水の流れをつくります。ただし、このエアーポンプ、音と振動が悩みのタネです。このタイプのフィルターを使う以上、ある程度は覚悟しておいた方が良いでしょう。水中モーター式は割と静かですが、これも物によりますし、やはりいくらかの音はあります。また、夏場は水温の上昇に荷担してしまう恐れもありますので気をつけましょう。

60センチくらいの水槽であれば上面フィルターが安価で静かです。ただし小型魚が吸い込まれてしまったり、中には排水口からフィルターの内部に入り込んでしまう熱帯魚もいますので、中型のおっとりした熱帯魚に適したフィルターと言えるかも知れません。その他、パワーフィルターはたいへん静かで濾過能力も強力ですが、小さな水槽では水流が強すぎる場合もありますので、ベタなどの、強い水の流れが苦手な熱帯魚には不向きです。

【関連ページ】 熱帯魚用のフィルター


【熱帯魚の飼い方】

それでは実際に熱帯魚を飼育する場合の手順を見ていきましょう。

【関連ページ】 驚くほど簡単な熱帯魚の飼い方

セットアップ

まずは水槽や器具類を軽く水洗いします。石けんや洗剤などは使わないようにしましょう。このとき、落としたり、ぶつけたりしないよう十分注意します。

洗い終わったら外側についた水滴はタオルなどで拭き取り、平らで安定した丈夫な台の上に置きます。水槽は水を入れると数十キロになりますので、置き場所は慎重に選んで下さい。水槽を置いたら砂利を敷き、オートヒーター(またはヒーターとサーモスタット)とフィルターを水槽にセットします。ただし、特にヒーターは、水を入れるまで絶対にコンセントを入れてはいけません。流木などの装飾物を入れる場合はここで入れます。

次に水槽のフチから5センチくらいのところまで静かに水を注ぎ、水温計を取り付け、ヒーターとフィルターのコンセントを入れます。すぐに熱帯魚を入れないのであれば、これで完了です。一昼夜このままにしておけば、熱帯魚にとって有害な、水道水に含まれる塩素は自然にほとんどなくなります。もしすぐに熱帯魚を入れる必要がある場合は、中和剤で水道水の塩素を中和しましょう。水温計を確認して、水温が設定した温度になっていれば熱帯魚を入れても大丈夫です。

熱帯魚を入れましょう

今まで飼っていた熱帯魚を新しい水槽に移したり、熱帯魚をショップで購入してきた場合は、いきなり水槽に入れてはいけません。これは熱帯魚にとって、とても危険なことで、種類によってはそれが原因で死んでしまう場合も珍しくないことなのです。

まずは袋に入れた状態で、30分くらい新しい水槽に浮かせておき、水温を同じにします。そして水温が同じになったら袋の中に新しい水槽の水を少しづつ加え、ゆっくりと水質を合わせていきます。熱帯卵生メダカやワイルドベタのようなデリケートな種類では、この作業に数時間を費やしたりもしますが、丈夫な熱帯魚なら30分くらいかけてあげれば大丈夫です。

エサやり

熱帯魚にとってエサの与え方は、生命を左右するほど重要な問題です。もしエサを与えすぎてしまった場合、あっと言う間に水質が悪化してしまい、一夜にして全滅してしまうことさえあります。

熱帯魚はエサが足りなくて死に至るようなことはほとんどありません。質の良いエサを選び、常に控えめに与え、残りエサは直ちに取り除いてあげることは、熱帯魚のみならず、水槽で魚類を飼育する場合には、とても大切なことに他ならないのです。

水換え

適切なエサやりをしていても、熱帯魚を飼育していれば、次第に水の中には有害な物質が蓄積してきます。愛魚の元気がなくなってからでは、体力の弱っているところに水換えによる水質変化の追い打ちをかけることとなり、いっそう深刻な状況になってしまう場合もあります。

また、熱帯魚の種類によっては、水質の悪化によって具合が悪くなっても、死の直前まで、そのそぶりを見せない強がりな熱帯魚もいます。たとえ元気そうにみえてもタカをくくらずに、定期的に水を換えてあげることが、大切な熱帯魚にいつまでも元気にいてもらうための秘訣と言えましょう。

さて、水換えの頻度ですが、これは種類ごとに変わってきます。ベタやグラミーなどは比較的こなれた水を好みますので、むしろ新しい水は苦手です。そのため、水換えは二週間に一度、5分の1くらい換えてあげれば良いでしょう。また、グッピーなどは新しい水を好む傾向にありますので、週に一度、3分の1くらいを換えてあげると、見違えるようにキビキビと泳ぎ回るようになります。

水槽をセットしてから状態よく数ヶ月が経ち、魚、光、水草、濾過バクテリアなどバランスがとれた水槽では、たとえその後、数ヶ月のあいだ水換えをしなかったとしても、全く問題ないどころか、熱帯魚の調子も絶好調になる場合が多いものです。フィルターや水換えに過信せず、水槽内のバランスをいかに保つかというところを注意しながら飼育してあげられれば理想的です。

その他の注意

熱帯魚は震動にとても敏感です。水槽をバンバン叩いたりすると、驚いて暴れまわったあげくケガをしてしまったり、飛び出してしまうこともあります。力の強い大型魚にいたっては突進した勢いでガラスやフタを割ってしまうかもしれません。くれぐれも気をつけましょう。

むやみに水槽の中に手を入れるのもよくありません。手についた汚れや、わずかな石けんの残りでも、熱帯魚にとっても深刻な害を及ぼす場合があります。できるだけ大きなピンセットやスポイト、アミなどを使って管理しましょう。

蛍光灯は長く点けすぎるとコケだらけになってしまいます。水草が入っている場合でも、一日8時間くらいで十分です。この場合、タイマーがあると、とても便利です。


【熱帯魚の病気】

時として熱帯魚も病気になってしまうことがあります。ですが、日頃からよく観察し、早期発見を心がけて正しく対処すれば救うこともできるのです。ここでは熱帯魚が病気になった時に役立つ、正しい治療方法をお伝えします。ぜひブックマークを!

白点病

熱帯魚を含め、金魚やメダカなども含めた観賞魚が最もかかりやすいのが、この白点病です。体やヒレに白い点が付き、いかにも病気という派手な症状になりますが、治療しやすい病気でもあります。治療にはヒーターで水温をやや高め(26度から28度くらい)に保つと共に、10リットルあたり大さじ一杯の食塩を加えます。塩はいきなり放り込まず、紙コップなどに水槽の水を汲み、そこでよく溶かしてから入れましょう。このとき決して熱帯魚の体に直接かけてはいけません。中でもナマズ類はこうしたことに弱く、場合によっては瞬時に息を引き取ってしまうこともあります。また、ナマズ類(コリドラス、プレコストマス、オトシンクルス……)やベタなど、熱帯魚の種類によっては塩を控えた方が良い種類もいますので、その場合は量を減らします。白点病は水温が急激に下がった場合に発生しやすい病気です、特に新しい水槽に移したり水換えをしたりする場合には温度差のないように気をつけたいものです。

わたかぶり病

体に白いモヤッとした物が付く病気です。これも目立つのでギョッとしますが、白点病同様に、簡単に治療できます。治療方法は白点病と同様です。

コショウ病

ベタに多く発病がみられる病気です。白点病よりはるかに小さい白っぽい点が、体中につきます。治療方法は白点病と同様ですが、とくかく白い点が極めて小さく症状がわかりにくいことに加え、病気の進行が早いため、手遅れになりやすい病気でもあります。なにか普段と様子が違うと感じたら、頭部やうろこの付け根あたりをルーペなどで観察してみましょう。デジカメで写真を撮って、思いっきり拡大して確認するのも良い方法です。底砂をかきまわしたりして水を濁らせたり、エサの与えすぎで急に水が傷んだりした時に発生することの多い病気です。

ヒレぐされ病など

ヒレやエラなどが赤くただれたように溶けたり、体が充血したりといった症状の病気です。ウィルス性の病気で、感染力が強く、塩や白点病の魚病薬は効果がありません。死亡率も高いため、警戒しなくてはならない病気です。あらゆる熱帯魚に感染し、ほとんど病気にかからないポリプテルスでさえも発病する、やっかいな病気です。治療にはヒレぐされ病など、ウィルス性の病気に効く魚病薬(グリーンFゴールドなど)を用います。

松かさ病

ウロコが逆立ち、体が膨れあがったようになる病気です。治療の困難な病気ですが、レアな病気です。治療方法はヒレぐされ病と同様です。ちなみに、ある品種の金魚や、パキパンチャックスと呼ばれる熱帯魚など、病気ではないのに、もともとウロコが逆立っている種類もいます。

腹水病

体が風船のように膨らんでしまう病気です。ただし、熱帯魚や金魚には、病気ではないのに、もとから膨らんでいる品種もいます。治療は難しいですが、見かける機会は少ないでしょう。古い水で飼育している場合に見かける病気です。


【熱帯魚水槽のある空間】

たった一本の熱帯魚水槽があるだけで、そこには潤いのある癒やしの空間が誕生します。小さいながらもその中には熱帯魚や水草による生態系があり、それはあたかも遥かなる熱帯地方の秘境にひっそりとありつづける魅力的な水景色を切り取ってきたかのようです。こんな贅沢な楽しみはなかなかありません。この特集をきっかけに、あまりに素晴らしい、この知的なアクアリウムの世界を楽しんでいただけたらと思います。

120年の飼育経験から生まれた水槽